2010年9月18日土曜日

ゴキブリの脳から新たな抗生物質?

Christine Dell'Amore
for National Geographic News
September 10, 2010

見ただけで鳥肌立つ人も多いゴキブリだが、そのゴキブリの脳が人の命を
救う日が来るかもしれない。



 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や病原性大腸菌など、ヒトにとって
致死性のある細菌を死滅させる天然の抗生物質をワモンゴキブリの中枢神経系
が作り出すという研究が発表された。また、現在までに3種のバッタも細菌を
殺す同じ分子をその小さな脳の中に持つことがわかっている。

 研究の共著者でイギリスのノッティンガム大学のサイモン・リー氏によると
今回の発見は、地球上の動物の80%を占める昆虫の世界には新しい抗生物質が
豊富に存在している可能性があることを示唆するという。

 現在、従来の抗生物質に耐性を持つMRSAなどの細菌が引き起こす複数の感染
症の対策が急務になっており、こうした発見は非常に重要な意味を持つと
リー氏は話す。

「これは有望だと思う。普通は調べないような場所を我々は調べている。
私が知る限り、ゴキブリの脳を調べている人はほかにいない。しかし、
新たな抗生物質を見つけるにはこのような研究が必要だ」。土壌微生物、
菌類、人工的に作られた分子など、「普通に思い付く場所はもう調べ尽く
されている」。

 リー氏の研究チームは実験室でゴキブリを解剖し、組織と脳を分析した。
「見た目も嫌だが、臭いもひどいものだった」とリー氏は明かす。また、
バッタの組織と脳も分析した。

 ゴキブリとバッタの脳から見つかった9種類の抗菌性の分子を調べたところ、
各分子が異なる種類の細菌を殺すよう特化していることがわかった。この
“非常に賢い防御メカニズム”によって、昆虫たちは極めて非衛生的な環境
でも生き延びることができるとリー氏は説明する。

 さらに、抗生物質は最も重要な部分である脳の組織にしかないこともわかった。
例えば脚に細菌が感染しても昆虫は生き伸びられそうだが、脳への感染は致命的
となる可能性が高い。

 昆虫の脳から医薬品が開発されるのはかなり先になるというが、希望がない
わけではない。研究チームが昆虫の抗生物質をヒトの細胞に付加する実験を
行ったところ、有害な作用は起きなかった。

 この研究の予備報告は、ノッティンガム大学で2010年9月6~9日に開催された
英国総合微生物学会で発表された。

Illustration by Paul M. Breeden, National Geographic

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